ナナメの夕暮れ/若林正恭

幼稚園の頃、冬のセーターがチクチクして気になって仕方ないことをお母さんに訴えたら「チクチクしない!」って言われたエピソードがまえがきにあって思わず笑ってしまった。お母さんあるあるというか。チクチクするって言ってんのにチクチクしない!って言い伏せる感じね。

「普通」って多くの人のことを指すのかもしれないけどその括りとは大きく逸脱した人がいるのもたしかで、その人がもし隣にいたならば取り巻く世界の「普通」は変わってしまう。

それを言い訳にするのはよくないなぁと最近思う。

普通に考えたらわかるやん、とか普通はこうするやろ、とか。怒ってる時によく使いがちな私の言葉たち。よくない。人それぞれ、とはよく言ったもんですね。

 

この本で一番へー!って思ったのはヤンキーと紅茶の話。ヤンキーの家に遊びに行った時に紅茶飲む?って聞かれて、若林は自分が紅茶を飲みたいかどうかは一切考えずになんて答えることが好ましいのかだけを考えてた、というエピソード。しかも一回飲むって答えたのにその答えが間違ってたかもしれないと思ってやっぱりいらないって言っちゃう感じとか、私の周りにもこういう子がいた気がした。こっちからすれば「なんなん、どっちなん」状態でわけわからんこと言う子やなぁって思うけど、その子はその子で自信持てずに苦しんでる瞬間だったのかもなぁ。

これと似たような類いで私の周りには選択肢の答えを欲しがる子が何人かいる。たとえば彼氏と険悪なムードな中での文章でのやりとり。思ってることを正直に伝えてお互いが歩み寄っての解決、ではなくて、「私なんて言ったらいいの?」って相談されることがよくある。みんな口を揃えて言うのは「答え教えて欲しいわ、教えてくれたらその通り言うのに」。要するに本音でぶつかることより相手の機嫌を損ねないように立ち回る方がラクらしい。で、自分の中で出した結論で上手くいかなかったら激しく後悔して選択肢を誤った、と後悔する。いや、問題はそこちゃうやろ。と思うけど、自分がないから自分で出した答えに自信が持てなくてふらふらふらふらする。気を遣う、ともまた違って嫌われたくない、見放されたくないって気持ちが強いようにも感じる。さて、長くなるから次。

 

スタバで「グランデ」と言えない、から始まるエピソードもとてもよかった。自意識過剰からくるそれは、結局のところ散々心の内で馬鹿にしてきたことがブーメランになって刺さってる、という話。価値下げによる自己肯定は楽だけどそれは確実に自分に返ってきて、常に他人の目を気にしてしまって“生きてて全然楽しくない地獄”にハマってしまう。今ってこういう人多いんじゃないかな。自分を肯定するために他人や物事に対しての価値下げをする、にはなるほどーって感じだった。彼の言う「腐れ価値下げ野郎」って言葉がなんか好き。読みながら笑っちゃう。私の友達にもドラマとか漫画とか、やたらと「偶然見た」を強調して話をしてくる子がいるんだけど、そのうち「ほんとはそういうの好きなんだな」って気づきながらもなんでわざわざいつも言い訳するんだろって考えてたのよね。きっと彼女も普段価値下げをしてるからだ。とにかく他人への文句が多い。そうすると普段「いい歳して」とか「他にやることないのかな」とか言ってる自分が自分の首を絞めるんだね。好きなものを好きっていうことは何も恥ずかしくないのになぁ。

で、その話が行き着く先が肯定ノートを書く、というもの。楽しいと思うことを挙げていく。私は彼が書いた「動物は苦手だけど馬だけは平気なことに気づいた」っていうのがすごくときめいた。いいね!いいね!って嬉しくなる。

 

“好きなことがある”ということは、それだけで朝起きる理由になる。

 

っていう一文、素晴らしいと思うんだけど!

 

それから初めて西加奈子さんと加藤千恵さんに会った時の話もあって、ここから始まったのかー!ってわくわくした。いつも捻くれててめんどくさいイメージの若林がラジオで西さんと話してる時は甘えたの少年のよう、というかなんて言ったらいいのかな、心を許してる感じがしてすごく可愛くて、西さんのこと大好きやん!って興奮してた。全然懐かない子が懐いた時の感動みたいな。この出会いってきっと大きなものだっただろうし、よかったねぇって本当に思う。

 

あとはまえけんさんの話、よかったな。まえけんさんへの愛も伝わってきたし、まえけんさん自身の繊細さや人の幸せを願うあたたかな気持ちも伝わってきたし。

 

どうしよう、キリないね。

 

“会いたい人にもう会えない”という絶対的な事実が“会う”ということの価値を急激に高めた。

っていう言葉にほんと頷くばかりなんだけど、お父さんのことを書いてるエピソードは不意打ちすぎて息が詰まったほど。素晴らしかった。

合う人に会う、は私も大賛成だしそうしていきたいしそうするために生きてるような気がする。

読んでよかった!

若林の人間としての成長が見て取れて感動した!

 

それからラジオで破局について語ってたけど、「いい恋させてもらった」とか言うから切なくなっちゃったじゃない。

「人間にしてもらった」とか言うから泣きそうになっちゃったじゃない。

 

幸せになってね。楽しい本をありがとう。