あこがれ/川上未映子

今年書いたウィッシュリストの中に「学びのある本に出会う」っていうのがあったんだけど、これなんじゃないかと思う。私の想像してた学びとは違ったけど、間違いなく人生規模で見て大切な一冊になったし大好きな本だと言い切れる。

出会えてよかった。ていうか一冊の本に出会うことも奇跡みたいな確率だよなってひしひしと感じてる。これもやっぱりそれだけ好きになったからこそ思うことなんだろうな。感情が奇跡を連れてくる。

この本の感想を、良さを文章にしようとした時、何をどう書けばいいんだろうって一瞬言葉が出てこなくなるけど、私って割といつもそうなんだった。すごく好きなのに何がどういいのかを人に伝えるとなると何も出てこなくなる。間違いなくそれに魅力を感じてるのに言葉にしてしまうとどれも違うような、言葉にした瞬間からかけ離れていくような気になる。

でも多分、この物語に出てくる子たちも同じような気持ちなんじゃないだろうか。

心を大事にしてるんだなっていうのが至るところから伝わってくる。ゆっくりゆっくり真ん中に向かって言葉を選ぶみたいに。

初めに好きだなぁと思ったのはミス・アイスサンドイッチに惹かれた描写や、彼女を見ている時の心の状態。これが「しあわせ」なんだと存分に感じられるものばかりで胸がいっぱいになった。魅力というのは見る側の人間によって様々だってことで、自分の価値観で自分自身を全て否定してしまうといろんな可能性をなくしてしまうよね。もしミス・アイスサンドイッチが常におどおどしてるタイプだったら彼は彼女に惹かれただろうか。常に申し訳なさそうにぺこぺこしながら接客していたら彼は彼女に会いにお店に通っただろうか。あの大きな目は、青くべったりと塗られたまぶたは黙々と仕事をこなす彼女だからこそ引き立てられたわけで、単純に思えることも複雑な要素で成り立ってるんだろうなぁ。人の魅力ってすごいね。

私は昔から「プロの手つき」というやつが好きで、例えば御座候(大阪の回転焼きの有名なお店)の前なんかに行くと生地を流したりあんこを分け入れる様を食い入るように眺めてて、いつも惚れ惚れしては感嘆の溜め息が出るほどだった。たこやきとかもね。子供ながらに素人がパッとやってできることじゃないっていうのはわかってたし、「手が覚えてる」感じがかっこよくてかっこよくて、そんな時は主に手元を見てるしその人が整った顔をしてるかどうかなんてまったく関係ないのである。でもその仕事ぶりというのは男女問わず私にとっては最高にかっこよくて憧れの存在。そういうのって子供ならではみたいなところもあるのかもしれない。でも今でもその類いのものに感心して好きが加速することがあるから、やっぱり私が誰かを好きになる時に必要な要素なんだろうな。

会話をするって尊いね。

誰かと何かについて話す。考える。想像してみる。それをまた伝える。

それができる相手が一人と、あとは自分の世界さえあればずっと楽しい。

そんなこともよく伝わってくる一冊だった。

そんな風に心のやりとりができる相手でさえ話すことを躊躇う心の翳りなんかもすごくリアルで、人っていうのは永遠に楽しめる趣味になるなと再確認した。

 

いつかこの本をプレゼントできる友達ができるといいな。