みんな愛しい

たとえば世の女性が好きな人に好きだよ、と言われて

「今の顔と声と好きだよって言葉絶対忘れたくないどうしよう」

などと胸を高鳴らせるのと同じように、私は不意に聞こえてきた会話に

「今の間と抑揚とこのやりとり面白すぎて絶対忘れたくないどうしよう」

と思うのである。

 

天神祭の日のこと。
商店街を歩いてた時に後ろから聞こえてきた会話。

 

 ケース1.

「嘘でしょ?…ほんとにここ歩いていくの…?え、待ってヤバイってこれ…」

おそらく彼氏。標準語。優しそうな聞き取りやすい少し高めの声。

あまりの人の多さに怯んだんでしょうな。
それに対する彼女(おそらく)の答え。

「ほんならぁー!どこを歩いていくつもりですかぁー?」

全力で煽っていくスタイル。
好き。

 

 ケース2.

「あ、やば!落とした!」
と彼氏。絶対彼氏。

「あんたそれいっっちばん落としたらあかんやつやで」
と彼女。間違いなく彼女。

何を落としたのかはわからないままだけど、きっと一番落としたらあかんやつでもないのにノリと勢いで「一番落としたらあかんやつ」と言ってのける彼女が好き。焦って拾う彼の腕が浴衣の袖と共に視界の端に映った。