オカンといっしょ/ツチヤタカユキ

表紙がとてもカラフルで、中を開いたら目次が色の名前になってた。めっちゃオシャレやん。

 

私は初っ端の

#1 Brown 新作のオッサン

大阪弁の軽快さや、その奥にある哀しさや寂しさが一度に押し寄せてくる感じに掴まれて

「あかん、これおもろいやつや」

とわくわくした。わくわくすることってなかなかなくない?「楽しみにしてること」はあっても、既にその時始まっててその先が楽しみで、でもどうやったって時間を早送りはできないからもどかしくて…っていう状態。初めてのUSJとか?「待って待って!楽しい!え!どうする?何乗る?何食べる?待って!どうしよう!」みたいな。恋もそんな感じかな。いろんなことが知りたくて、いろんな話がしたいけどいっぺんにするのは無理で、でも急激にその人のことを吸収したくなる感覚。

大阪弁がやっぱり好きなんよ、私。めっちゃ伝わってくる。だから子供の頃の彼がオカンに一生懸命映画の話をするだけでもう胸がぎゅーってなる。

「あんな、マーティがおってな、デロリアンに乗ってな、昔に行くねん」ってもう可愛くて切なくて苦しい。お母さんが帰ってきたら嬉しいからいっぱい喋りたくなるのよね。

 

フィクションとのことなのでどこまでが彼の半生とリンクしてるのかわからないけど、全く関係がないとも言えなさそう。なのでオカンが実際のお母さんと比べてどうなのかっていうところが気になるけどまぁエキセントリックね。そら息子もおかしなるわ。って思ってしまう描写も多々あった(自分の性的な話を平気で息子にする感じとか)。でももしかなり近い雰囲気の中生活をしていた上でツチヤタカユキという人間が出来上がったのなのなら本人の苦悩はもちろんのこと、天才を生み出した環境でもあるということで人生ってすごいなぁと思う。今までの全てで成り立ってるわけだから、何が欠けてもだめなのよね。何もかもに意味がある。

 

この本を読んでからもう結構時間が経ってるんだけどさっき改めて本を開いてみたらしおりを挟んでありました。きっとそこが一番印象に残ったところなのでしょう。忘れてたけど自分が選んだ場所を後から知るって楽しい。そこをご紹介しますね。

 

#7 Maroon 僕のおばあちゃんには、建物の声が聞こえる

壁に向かって怒鳴り散らしてるおばあちゃんを見て、建物と会話ができるんだと思ってたらそれからしばらくして精神病院に入れられたことを知るお話。お見舞いに行くとおばあちゃんはそれまでとは違って安らかな表情でおとなしく座っている。それを見てオカンはだいぶ良くなってたから安心した、と言う。そこからの流れでのセリフです。

「おばあちゃん、別に前のままでええやんけ!皆おばあちゃんの事、恥ずかしいって言うけど、オレは好きや!恥ずかしい人の何がアカンねん?恥ずかしかろうがなんやろうが、好きなもんは好きやねん!恥ずかしい人のほうがオモロいやんけ!何にもおもんない奴の方が罪やろがい!おもんない奴と喋っとったら死にたなんのじゃ!オレが法律やったら、おもんない奴全員死刑じゃ!」

 

もう泣き笑いよね。うんうん…って。このエネルギッシュさが私は好きです。ただ周りが扱いやすいようにおとなしくされたおばあちゃんじゃなくて、建物と会話できるおばあちゃんの方がおもろいもん。そのまんまでええやんって。そのまんまが好きやのにってストレートに言える彼が素晴らしい。おもんない奴全員死刑じゃ!の荒ぶり具合が切なくて愛しい気持ちになる。

 

あとノートにはここをメモってました。

素晴らしいミュージックは、記憶の空港になっている。入国審査は、振動する鼓膜。パスポートは、そのサウンドに共鳴する心臓。搭乗口のゲートを越えると、あの頃に戻される。#5 White

 

 

読んでる最中に「この人好きやわぁ」って何度か思った。幸せな時間でした。ありがとう。